安達 真平氏による『雲南省哀牢山地の多民族棚田地域における灌漑システム』(ヒマラヤ学誌 No.13, 341-353, 2012)を、ヒマラヤ学誌編集委員会(編集責任者;松林公蔵京都大学教授)の承諾を得て、掲載しています。

【添付資料】himalayan_study_monographs_no_13_p341-353_adachi.pdf/『雲南省哀牢山地の多民族棚田地域における灌漑システム』 安達 真平 ヒマラヤ学誌 No.13, 341-353, 2012

雲南省哀牢山地の多民族棚田地域における灌漑システム

安達 真平

中国雲南省哀牢山地は世界有数の規模を誇る棚田地域である。山地斜面に広がる無数の棚田は、主にハニ族やイ族といった少数民族によって数百年、一説には千年以上の昔から開かれてきたといわれる。谷間を埋め尽くす棚田景観は、国内外から多くの観光客を引きつけている。

1980年代後半以降、多くの研究者によって棚田とそれを支えてきた技術や社会の仕組みに関しての研究論文や書籍が発表されてきた。特に、哀牢山地の自然環境を巧みに利用した棚田農業システムは、生態学的に優れた循環型農業システムとして高く評価され、2010年には、「ハニ族の棚田システム」として、FAOの定める世界農業遺産(Globally Important Agricultural System)にも登録された。

しかし、これまでの研究対象はハニ族に集中し、同じように棚田を耕作する他の民族はほとんど注目されてこなかった。筆者は、元陽県西部を中心に哀牢山地の多くの村を調査してまわる機会に恵まれた。そこで感じた哀牢山地の魅力は、棚田景観の壮大さや循環型の農業システムだけでなく、多くの民族が棚田を開きながら共存していることでもあった。多民族共存は、広く熱帯、亜熱帯山地に見られる特徴である。しかし、哀牢山地では、集約的な棚田農業を背景に、狭い範囲に多くの民族が近接して居住しているのが特徴である。この背景には、

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