安成 哲三氏による『「ヒマラヤの上昇と人類の進化」再考 ―第三紀末から第四紀におけるテクトニクス・気候生態系・人類進化をめぐって―』(ヒマラヤ学誌 No.14, 19-38, 2013)を、ヒマラヤ学誌編集委員会(編集責任者;松林公蔵京都大学教授)の承諾を得て、掲載しています。
「ヒマラヤの上昇と人類の進化」再考 安成 哲三 本稿では第三紀末から第四紀にかけてのヒマラヤ・チベット山塊の上昇と、それに伴う気候・生態系変化が人類の起源と進化にどう影響を与えてきたかを、最近30 年の地球科学、人類学の研究をレビューしつつ、考察を試みた。チベット・ヒマラヤ山塊の上昇は、第三紀末からアジアモンスーン気候と西南アジアから北アフリカにかけての乾燥気候を強化していった。特に5 ~ 10Ma(Ma: 百万年前)頃の、東アフリカの大地溝帯の形成による赤道東アフリカの気候の乾燥化と草原生態系の拡大は、原人類の起源に重要な意味を持っていることが明らかとなった。チベット・ヒマラヤ山塊の上昇に伴うモンスーン降水の増加は山塊の風化・侵食過程を通して大気中のCO2 濃度減少を引き起こし、地球気候を第三紀から第四紀の寒冷な氷河時代へと導入していった。CO2 濃度の低い大気環境によるC4植物の草原の拡大は有蹄類の動物の多様な進化を促し、このことは原人類の進化にも大きく影響したと考えられる。第四紀は氷床の拡大縮小を伴う4 万年から10 万年周期の激しい気候変動の時代となったが、チベット高原における雪氷の拡大縮小は、気候変動を増幅する役割を持っていた可能性が高い。氷期サイクルに伴い東アフリカの湿潤・乾燥気候の分布が大きく変動したことは、原人類の更なる進化とユーラシアへの移動を促す重要な契機となった。第四紀の寒冷な気候とアジアモンスーンの弱化に伴う中央アジア・西南アジア地域の広大な草原・ステップの形成は、多様な草食性動物の棲息の場となったが、この地域に移動した新人類の進化にとって、これらの草食性動物との共存関係は重要な意味を持つと考えられる。最終氷期が終わった10Ka(Ka:千年前)1 万年前以降、温暖で比較的安定な完新世の気候の下で、チベット・ヒマラヤ山塊の東と西で、人類はイネと麦類を中心とする農耕を始めて新たな文明の時代に入ったが、同時に地球環境を人類自らが大きく変化させるという新たな問題を生み出す時代の始まりにもなっている。(以下、添付ファイルをご参照くださいませ。) |