岡 邦俊氏による『旅行者と研究者とのはざまで ―雲南懇話会中国法制研究会の活動報告―』(ヒマラヤ学誌 No.14, 255-263, 2013)を、ヒマラヤ学誌編集委員会(編集責任者;松林公蔵京都大学教授)の承諾を得て、掲載しています。
旅行者と研究者とのはざまで 岡 邦俊 研究会の発足まで雲南懇話会は、雲南大学・民族研究院の尹紹亭教授のご指導の下に、2008年以降の毎年10月下旬から11月上旬にかけて、雲南省の少数民族を訪ねるフィールドワークを実施している。日本からの参加者は、毎回、定年後世代の男性を中心とする7 ~ 10名前後で、2011年には女性3名が初めて参加。これまでに、北は省内の標高3300m近い迪慶チベット族自治州の州都/香格里拉(シャングリラ)から、南は標高100mに満たないヴェトナム国境の紅河哈尼(ハニ)族彝(イ)族自治州/河口瑶(ヤオ)族自治県、東は文山壮族苗族自治州丘北県の壮(チワン)族・彝族の村、西はミャンマー国境の徳宏タイ族・チンポー族自治州まで、少数民族の都市や村を数多く訪問し、さまざまな文化交流の成果を上げてきた)。 毎回の参加者のうち、筆者を含めた何人かは、とくに雲南省の少数民族の法的側面に関心を抱くようになった。筆者自身、2008年に訪問した紅河哈尼族彝族自治州南部の元陽県では、営々と築き上げられた高低差1200m(標高300 ~ 2500mの間に分布している)、文字どおり一目千枚の梯田(棚田)を前に、全体の水利に関する権利関係が気になった。また、2010年、西北部・香格里拉の松賛林寺の前で尹教授が口にされた、チベット族の「一妻多夫」の婚姻形態から、帰国後、中国少数民族の婚姻法に関する文献を当って見なければ…と思ったりした。 これらの法的関心の対象は、本来、法社会学の研究領域に属するものである。しかし、尹教授に伺ったところでは、少なくとも雲南大学では、民族研究院(文化人類学教室)と法学研究室との積極的な交流はなく、教授ご自身も法社会学者との共同研究や共同調査に参加した経験はないとのことであった。また、法社会学的な研究は、綿密な作業仮説による長期の社会調査を前提とするものであり、1年に10日ほど少数民族訪問に参加するだけの旅行者としては、より深い知見を得ようとしても、ディレッタンティズム(dilettantism)の域を出ないのではないか、と自戒された。 フィールドワーク参加者の有志は、2011年4月からの、雲南省の少数民族の法的側面に関する継続的な研究会(むしろ学習会)を開始する際、対象を日本語文献による学習が可能な法制度に限定し、当面は法社会学ないし法人類学などの専門領域を対象外とすることを申し合わせた。これは、専門領域に深入りすることを避けながらも、毎回のフィールドワークへの参加を単なる観光旅行に終わらせず、アマチュアの興味と実力の範囲で少数民族問題を少しでも理解したいという願いからである。 (以下、添付ファイルをご参照くださいませ。) |