講演内容の概要を、以下に示します。
- 「ヒマラヤの自然の聖地, その1」-ブータン東部の女神伝説-
写真家、AACK 小林 尚礼
ブータン東部のタシガン県に伝わる女神伝説、アマ・ジョモについて紹介し、年一回7月に行われる女神に関連する聖地での特別の祭りについて写真を中心に紹介した。また、普通入ることの出来ない寺院に、観光プロモーション用の壁画・像の写真を撮る為、特別入ることを許可された。これらの珍しい、貴重な写真を一部、紹介した。 - 「高校生に夢を!夢舞台/崑崙の未踏峰へ」 -ヤズィックアグル峰(6770m)初登頂の記録、2011年-
信濃高等学校教職員山岳会(信高山岳会) 大西 浩
信高山岳会創立30周年及び長野県山岳協会50周年にあたる2011年、会の原点に立って、教師自身が夢を育み、夢に挑み、得たものを、今後の高校登山の活動に反映させ、更に多くの子どもたちに夢を伝えたいという思いから、西部崑崙山脈の未踏峰(6770m)に挑戦し、登頂に成功した記録である。
この山は、懇話会の代表を務める安仁屋にとって、少なからぬ因縁がある。
安仁屋らは2009年7月にAACK会員5人でこの山を目指したが、出発直前に発生したウルムチ騒動により、渡航を断念せざるを得なかったからである。しかし、演者等は偵察行とはいえ09年に同じ経験をしながらも、翌10年の偵察行(大雨による道路事情の悪化により、失敗)など継続して登頂を目指し、2011年に成功した。長野県の登山関係者と新疆地域のエージェントとの長年にわたる交流・信頼に根付く執念の違いであろうか。準備期間その他の関係で、 高校生を連れて行くことは出来なかったが、長野県出身の若手OBの参加を得て成功した話は、次のステップに繋がるであろう。 - 「ベトナム北部の茶と米食文化」-首都ハノイを中心として-
京都大学Global COE 研究員 長坂 康代
雲南懇話会で最近力を 入れている「お茶」に関する話題である。ベトナムでは、世界を席巻しているコーラが普及していない。その理由はお茶である。タイグエン茶(緑茶)が一般的 で、飲む場所として「内」の茶屋と「外」の茶屋がある。外の茶屋にはさらに固定茶屋と移動茶屋がある。演者は固定茶屋に焦点を当てて機能や客層など詳しく 説明した。単なるお茶の提供に止まらず、コミュニティの形成にとって重要な役割を果たしていることを、客の細かい観察・分析から明らかにしている。近年ハ ノイでもコーヒーが浸透し始めているが、お茶の8〜10倍するので一種のステータスシンボルとなっている。コーヒーを飲む場所、値段で客層を4つのグルー プに分け、コーヒーと同時に食する米食を分析した。茶文化の懐の広さ・深さを改めて認識した。 - 「北の紙の道、南の紙の道」-樹皮紙、ダード・ハンターの残した空白-
文書修復家、(元)吉備国際大学教授 坂本 勇
北のシルクロード沿いに、ヘディンらにより発見された古文書や残紙を用いた調査研究は、素材が多く広く知られてきた。近年、東南アジア・太平洋地域においてオーストロネシア語族の調査研究が、考古学・人類学・民族学・言語学等の諸分野で発展し、樹皮紙/樹皮布についての情報が増えている。
演者は紙の専門家として、中国、インドネシア、メキシコ等で発見されている神秘的な「透かし模様」の石器ビータに注目している…という。
JICA エキスパートとしてインドネシア・バンダアチェで津波の被害を受けた文書の修復事業に3年間携わった時に行なった調査で、ダード・ハンターの「世界の紙の伝播マップ」で東南アジア地域が空白になっていることが、調査・研究をスタートした切欠である。紙の製法として古くは樹皮をたたく方法があり、樹皮紙は世界に広く分布していた。インドネシアでは樹皮紙の技術が高度に発達していて、その歴史は布と紙の混在時期を含める3,600年前ぐらいまで遡る。 会場では樹皮紙で作った400年ぐらい前の本を見せてもらい、触らせてもらったが、実に素晴らしい物であった。 - 「中国少数民族の自治と慣習法」 −悠久、雄大、多様の大地へ−
山梨学院大学教授、一橋大学名誉教授 西村幸次郎
悠久、雄大の大地は、人口、人権・自由、環境、民族など多様の問題を抱え、日中関係も厳しい状況が続いている。演者は、これまでの少数民族地域における視察・交流 を踏まえ、民族法研究の意義を確認し、民族区域自治制度、中華民族の多元一体論、西部大開発との関係、民族の風俗習慣、民族慣習法と国家法、婚姻法の「弾力的補足的」規定の順に検討し、中国社会における民族問題の重要性、問題性を考える…として講演された。
演者が中国の民族法に興味を持ったのは1988年の海南島旅行からで、その後、何遍も現地を訪れて20余の少数民族と交流し調査を行ってきた。従って、内容は盛りだくさんで多岐にわたった。参加者のある人曰く、「1年間の講義を1時間でやったようなものですね」。同感。特に興味を持ったのは、共産党になって以降の少数民族の風俗習慣の扱い方の変化である。尊重(1949〜1956)、軽視(1957〜 1965)、排斥(1966〜1976)、改革期(1977年以降)とあった。最後にNHKの名曲アルバムから「草原情歌」を青海省の映像と共に流したが、氏の少数民族に対する思いが伝わった。