講演内容の概要は、以下の通りです。
- 「ヒマラヤの自然の聖地, その2」
-ブータンの八百万の神々-
写真家、AACK 小林 尚礼
ブータンには、自然信仰の聖地が多い。岩壁や洞窟のほか、湖や岩、山、大木などの聖地が散りばめられている。そこには八百万の神が宿る。山岳民族が暮らすブータン東部には山の聖地が多く、鬼神の宿る山、仏や聖人ゆかりの山など、その山容によって宿る主は様々だ。また、3年に1度降臨する土地神へ祈る祭りなども伝わる。それらを写真で紹介しながら、人々は自然と対峙して何を祈るのか、その根底には何があるのか考えてみたい・・・として概説された。
いつもながら鮮やかな色彩に彩られた作品(写真)です! - 「サバイバル登山、その思想と実践」
-自給自足登山のさきに見えるもの-
岳人編集部、サバイバル登山家 服部 文祥
自給自足の登山といえる「サバイバル登山」を試みるに至った過程、具体的な事例紹介、その結果、なにを感じ、登山や現代社会をどのように評価するようになったのか…について、概説された。
兎に角、圧倒的な存在感である。服部さんの存在そのものが、野生の証し。強靭な「はがね」のような野生の匂い、凄まじい生命力を感じさせられたひと時でした。3人のお子さん達の愛くるしい笑顔が眩しかったですね。 - 「立山・剱岳の多年性雪渓と氷河」
-これまでの日本の雪渓研究史と今後の展望-
富山県立山カルデラ砂防博物館、AACK 飯田 肇
飛騨山脈,剱岳にある小窓雪渓および三ノ窓雪渓で,日本最大級の長大な氷体の存在を確認。その後の流動観測の結果,小窓,三ノ窓両雪渓は, 日本では未報告であったl年を通じて連続して流動する,現存する「氷河」であると考えられる。 立山東面の御前沢雪渓も,現存する「氷河」であると考えられる・・・として概説された。(詳細は「雪氷」73巻3号、p213~を参照ください。)
立山連峰の他の万年雪(内蔵助雪渓等)についても、引き続き調査していく, としています。 - 「史料に見るタイ文化圏の樹木利用」
-絹、茶、酒やビンロウなど-
東京外国語大学教授 アジア・アフリカ言語文化研究所 C.ダニエルス
タイ文化圏は、雲南を含む東南アジア大陸部に広がる山間盆地一帯に位置するが、盆地のタイ系民族以外に、山住みのモン・クメール系、チベット・ビルマ系、カレン系、ミャオ・ヤオ系諸語を話す民族も暮らしている。13世紀から20世紀まで、当該地域がタイ系民族の言語と文化によってゆるやかに統合されていた歴史事実にちなみ、タイ文化圏と命名された。タイ文化圏の物質文化は時代と共に変わってきたが、それがどのような要因によって変化したのかなどについては、研究がほとんどない。
本発表では歴史史料に明確に読みとれる樹木とそれを加工してできるモノを取り上げて、物質文化の歴史を考えてみたい・・・として概説された。日頃、勉強・調査研究することの難しい「時代&地域」の貴重な研究成果であった。 - 「雲南省南部から北タイにおけるメコン川流域の環境保全と開発」
-メコンオオナマズをめぐる生態史−
総合地球環境学研究所名誉教授 秋道 智彌
メコン川流域では1990年代以降、中国の経済発展に関連した開発が進められてきた。一方、1998年の長江下流域における大洪水への反省から、中国政府は「退耕還林」政策を打ち出した。天然林の伐採と狩猟の禁止を訴えた国策は環境保全を前面に打ち出すものであった。
国内的には国家級保護区を制定するなどの動きがある一方、周辺のとくに東南アジア方面やインド洋への経済進出を画策する開発計画が進められてきた。こうした急激な経済開発のなかで、メコン川の固有種であるメコンオオナマズをめぐる保全問題が急浮上した。ここではメコンオオナマズを事例として近年のメコン川集水域における開発と環境保全の問題を概説された。
タイ王国チュンコーン水域では、近年、オオナマズの漁獲はゼロとなっている。その様子が、捕獲頭数の経年変化として図示されました。眼が離せませんね!