最後に、鈴木 正崇氏(日本山岳修験学会会長、慶應義塾大学名誉教授)から、『日本人にとって山とは何か 〜自然と人間、神と仏〜』と題した発表をいただきました。

 変化に富む日本の山々は日本列島で生活する人々の精神文化を育み、その思想や哲学、祭りや芸能、演劇や音楽、美術や工芸の想像力の源泉となってきた。その中核には山に畏怖の念を抱き、祭祀や登拝を行う山岳信仰があった。人々は、神霊が降臨し顕現し鎮まる山、仏菩薩の居ます曼荼羅世界の山を祈願の対象とし、霊山・霊場・聖地としての山との共感や体験を通じて日々の生活を蘇らせた。山岳信仰は仏教と深く結びついているため、寺院は山号を持ち、山名には仏菩薩や仏教思想に因む名前が多い。日本の山の神は本地(ほんち)垂迹(すいじゃく)の思想に基づき、本地の仏菩薩が権(かり)に姿を現して「権現」として垂迹するとされ、湯殿山大権現、戸隠山大権現などと尊称された。山岳登拝はかつては一年の特定期間に限定され、精進潔斎や水垢離で身を清め、白装束で登ったものであるが、近代以降、山は「登山」という娯楽とスポーツの場に変貌した。明治の神仏分離、近代アルピニズムの導入、モータリゼーションの発達が日本人の山に関する思考を激変させた。しかし、それは最近150年間の出来事に過ぎない。講演者はこのような山の精神史を振り返り、その根源にある自然と人間のありかたを見つめ直し、日本人にとって山とは何か、という命題について、多数の印象的な写真を使い、考察された。

Additional information