最後に、森永 由紀(明治大学総商学部/大学院教養デザイン研究科 教授)から、『モンゴルの馬乳酒の製造方法 〜遊牧知の検証〜』と題した発表をいただきました。

 馬乳酒は古来、遊牧民が各家庭で馬の生乳を発酵させて作る、酸味のある飲料であり、アルコール度数は数%と低く、その効能は良く知られている。旧ソ連諸国、中国、ヨーロッパでは20世紀に進められた遊牧民の定住化政策の影響で馬の数が減り、今や馬乳酒は工場で製造される健康食品となっている。一方、遊牧が現在でも基幹産業であるモンゴル共和国では多くの地域で馬乳酒が生産されており、幼児も含め老若男女が大量に飲み、夏場は食事をとらずに馬乳酒だけで過ごす人さえいる。

 講演者らは2012年にモンゴル気象水文環境研究所の気象観測網を利用して馬乳酒に関する全国調査を行った。多くの地域で馬乳酒が日常的に飲まれ、伝統的な製造法も残っていることが明らかになったが、馬乳酒はどこでも作っているわけではない。モンゴル中央部が主産地であり、名産地も多い。モンゴル東部は馬をたくさん飼っているが馬乳酒は作らない。講演者らは馬乳酒の名産地であるボルガン県モゴト郡の協力を得て、馬乳酒製造にまつわる自然科学的および文化人類学的研究を開始した。

 2015年、明治大学に馬乳酒研究所が設立され、自然環境、栄養学、社会学などの研究者が参加し、学際的な研究が行われている。2016年にはモゴト郡で、試料収集を主目的とした馬乳酒品評会が開かれ、51家庭から馬乳酒の提供が得られた。今後、これらを試料とした科学研究が行われる。講演者らは遊牧民と「おいしい馬乳酒をどう作るのか?」という問いを共有している。遊牧民はおいしい馬乳酒を作りたい、振舞いたい、売って収入を得たいと願っている。講演者らは科学的な研究により、この問いの答えを見つけ出し、彼らに還元したいと願っている。

 

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