長坂 康代氏による『ベトナム北部の茶文化 ―首都ハノイを中心として―』(ヒマラヤ学誌 No.15, 184-192, 2014)を、ヒマラヤ学誌編集委員会(編集責任者;松林公蔵京都大学教授)の承諾を得て、掲載しています。

ベトナム北部の茶文化
―首都ハノイを中心として―

長坂 康代

 

 ベトナムの首都ハノイでは、「タイグエン茶」とよばれるベトナム緑茶が、都市の日常生活のなかで、老若男女、経済階層の上下に関係なく愛飲されている。中国茶と同じ製法のこの緑茶の大半は、出稼ぎ労働者を通してハノイに広く流通している。

 

 茶屋は元手がかからず、必ず収入になる仕事であるが、通りに開かれた「固定茶屋」は、地域住民が地域のために開くという特徴がある。この茶屋を通して民衆独自のネットワークが築かれているが、茶屋は茶を提供するだけではなく、嗜好品という口直し機能がある。

 

 「外」の固定茶屋は、職業や階層を限定せず、ゆるやかに地域を超える地域社会ネットワークがはられ、茶屋をめぐる社会性を創り上げている。茶屋には、家の台所機能もある。朝の茶屋では、学生や近隣住民の、朝食を摂る姿が多くみられる。茶屋は自宅代わりの空間にもなる。このように、茶屋は情報交換の場としての集積機能として、男女の出会いの場、物の値段の相場を知る場、人びとが情報を共有する場になっている。

 

 茶屋は、地域住民以外の休息の場、簡易的な市場機能ももっている。地域の両替商としての機能をもち、売買の行為が交錯する場であり、簡易市場にもなる。地域住民以外の者が地域に認められる、現地コミュニティへの登竜門の場にもなっている。こうして地域のコミュニティ意識を共有することで、茶屋が地域社会の安全保障をつかさどる、フィルターの役割も果たしている。

 

 茶を通して都市住民が、自主性を発揮してコミュニティ生活を送るとき、そこでの共同性は、旧住民だけや一つの住民層に限られるのではなく、開かれた共同性を創り出す。こうした路上の固定茶屋が入り込めない通りや市場内では、簡便な移動茶屋が、民衆に的確に茶を提供する。まさに、茶はハノイの社会生活に欠かせない文化の基層をなしている。

 

(以下、添付ファイルをご参照くださいませ。)

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