1. ヒマラヤから沙漠へ
    〜K2登頂から人間の営みを訪ねて〜
    小松 由佳(フォトグラファ-、東海大学山岳部OG)

     高校時代に手に取った一冊の写真集からヒマラヤに憧れ、東海大学山岳部を経て卒業後の数年間、ヒマラヤの世界に飛び込んだ。2007年のパキスタン シスパーレ峰7611m登攀(撤退)後次第に足遠くなり、最後のヒマラヤは5年ほど前に訪れたナンガ・パルバットのルパール谷のトレッキングである。K2登山(登頂)を経て次第にヒマラヤから離れ、草原や沙漠の伝統的な人の暮しやシリア難民の今を写し取る、フォトグラファーとしての現在を紹介された。

     2006年、23歳の若さで挑んだK2峰(8611m)登頂の様子は、緊張感・臨場感に溢れ圧巻だった。平易な言葉で穏やかによどみなく語る語り口は、聴く人の心を魅了し、映し出される厳しい画像から、ヒマラヤの大自然に身を置いたときに感じたという「人はみな自然に生かされている」思いを共有し得た。

     3名で頂上アタックでC1に向かうも、上級生1名が激しい腹痛で下山したこと。45度以上という斜度・頻発する雪崩・落石の恐怖、狭隘なテントサイト、C3(7900m)から見えたBCの灯り(大きな焚火の炎だった)、頂上の景観・地球は丸いと実感、帰路C3に辿り着けずビバーク、過酷なビバークの様子・生死の境・生還は好天の賜物、この間BCと交信できず自分たちは遭難したとされ実家にも通知された、BC帰着後に祝福に駆けつけたロシア隊4人の若者、自分たちがBCを離れる日・彼ら4人は雪崩に遭遇し行方不明に…など等、淡々と紹介された。 使用した固定ザイルは3500m、連日好天に恵まれたといいます。

  2. トピック「日本のライチョウを取り巻く現状と課題」
    〜気候変動とライチョウの生息環境〜
    堀田 昌伸(長野県環境保全研究所 主任研究員(鳥類生態担当))

     日本のライチョウは氷河期の遺存種として本州中部山岳の高山帯にのみ生息する、世界最南端の集団である。現在、個体数が減少傾向にあり絶滅が危惧されている。環境省では保護増殖事業計画を策定し,生息域内及び生息域外で保護の取組を進めている。その現状、及び今後問題となる地球温暖化とその影響予測について話された。

     ニホンライチョウは、中央アルプス、白山、八ヶ岳では、絶滅した。北ア 爺ケ岳・岩小屋沢岳主稜線上で赤外線センサーカメラを用いた高山帯のほ乳類相調査が為され(2007年、2011年~)、2013年~2016年に確認されたほ乳類が報告された。撮影枚数はニホンザルが圧倒的に多く、次いでキツネ、ニホンノウサギ、テン…となっている。ニホンジカの侵入が4年連続(2013年~2016年)で確認され、イノシシの侵入も北ア北部で初めて確認されている(2015年~2016年)。

     高山帯の生物多様性の危機として、A.踏みつけや開発による高山植生の荒廃(第1の危機)B. ニホンジカの採食圧増加による植生変化や生態系への影響(第2の危機) C. ゴミやペットの持ち込みにともなう汚染(第3の危機)、そしてD. 気候変動によるライチョウ・高山植物等の生息適域の 縮小(第4の危機)ニホンライチョウの生息環境は、高山植生に強く依存している。保護増殖事業の取り組み、生息域変化の予測、そして演者らが目指していることに言及された。

  3. 中国の水資源について
    〜節水への取り組み〜
    竹島 睦(国土交通省 水管理・国土保全局 総合水資源管理戦略室長)


     中国においては、水質汚染や地下水位の低下など様々な水問題が発生しているが、特に水不足は中国の経済発展にとって深刻な課題であり、中国政府は節水型社会建設を目標に掲げ、農業用水、工業用水等さまざまな水利用の効率化に取り組むほか、国民の節水意識の向上に取り組んでいる。演者自身が、JICA技術協力によって効率的な水資源管理手法の導入や節水の普及啓発能力の強化などに取り組んだ経験を踏まえ、中国における節水への取り組みについて紹介された。

     特に中国の水資源管理における4つの根本課題として、
    1.人口、経済と水資源分布の不均衡是正 … 南水北調事業(中央ルートは2014年12月完成)
    2.流域単位での水資源管理の確立 … 例:発電と洪水対策として三峡ダム建設(2009年完成)
    3.使える水を増やすための河川や湖沼の水質改善
    4.地下水の回復のための採取規制と代替水源の確保
    これらの課題解決へ向けた、適切な水資源管理の実践が必要。

     話は広範かつ多岐に亘った。中国における節水型社会建設の経緯、第12次5カ年計画期間の節水型社会建設主要指標(2015年)、水資源管理制度の改善案の作成、適切なダム運用のためのガイドライン作成、中国における水資源管理制度改善案の骨格について説明された。具体的な「節水普及啓発活動」の展開、節水リーダー研修とその後の活動の広がり、節水リーダーによる自主的な活動の展開、日本の民間企業との連携(研修、教材作成等)などに話は及んだ。

  4. 栽培ソバの野生祖先種を求めて
    〜中国雲南省三江併流地域での現地調査〜
    大西 近江(京都大学 名誉教授(栽培植物起原学分野))


     ソバという栽培植物はどのような野生植物(野生祖先種)から、何処で生まれた(栽培の起原地)のか!演者は、1990年秋に雲南省永勝県でソバの野生祖先種を発見した。ソバ野生祖先種は1990年以後、四川省、雲南省、東チベットの各地でも見つかり、金沙江、瀾滄江、怒江の三江併流地域の野生祖先種が栽培ソバに最も近縁であることが判明し、『栽培ソバの起原地は中国西南部の三江地域であり、野生祖先種の起原地は東義河・尼汝河の谷であり、野生祖先種は Fagopyrum esculentum ssp. ancestrale Ohnishiである。』とのソバの三江地域起原説を提唱し、ド・カンドルの説(シベリア・黒竜江地域説)を百年ぶりに否定した。今では三江説が定説となっている。2005年~6年の東義河渓谷の調査、2003年の梅里雪山一周の巡礼の旅を中心に、豊富な写真とともに紹介された。

  5. ミャンマーの体制転換と私の農村研究の30年
    髙橋 昭雄(東京大学 東洋文化研究所 教授)

     アウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)が政権を握り、急速に民主化が進んだことによって、ミャンマーは俄かに世界中の注目を集めている。しかし、その社会経済の実態、特に人口の7割が居住する農村部の研究史は極めて浅い。そのような中で、演者は世界中でただ一人、1986年の社会主義、軍政期、そして民主制への移行期と、30年の長期にわたり、ミャンマー農村の深部に入り込んで社会経済データを収集し、調査研究を続けてこられた。講演の冒頭、1回あたり100分の講義を30回行うに等しい内容であると言われ、ここでは、画像を示しながら、体制転換とミャンマー農村社会経済構造の変容の現代史を概観された。

     ミャンマーの農業の3類型が示された。ミャンマーの農業政策の根幹として、A.農地国有制度(農地国有化法+小作法、農民の権利保護法)、B.供出制度、 C.計画栽培制度 について概説された。この3法を農村で施行するための橋頭保が小作人登録帳(高収量品種の導入や乾期水稲作もこの制度によって導入された)。 2012年農地法制定により、農地三法は廃止になった。国土の土地利用、作付純面積に対する各地目の構成比、主要な農作物作付面積構成比等、統計数値を示され、農村の変化の動態、進むDe-agrarianization に言及された。

    先生には以下の著作があります。
    髙橋昭雄著『ミャンマーの国と民―日緬比較村落社会論の試み―』2012 明石書店.

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