第60回雲南懇話会は2024年12月22 日(日)、JICA 国際会議場(東京・市ヶ谷)で開催されました。その講演概要を以下に紹介いたします。

  1. 「ゴリラの森からヒマラヤの氷河まで -動物の腸内細菌を通じて見える世界ー」 中部大学応用生物学部・教授 牛田一成

     牛田様は海外出張中のため、アフリカからZoomシステムを使ったリモート講演となりました。講演のスライドは中部大学の土田准教授に操作していただきました。アフリカ、岐阜(中部大学)、東京という3元中継になりましたが、Zoomでの会議に習熟している牛田様、土田様のおかげで、スムーズに実施することができました。土田様、ご協力、まことにありがとうございました。
     牛田様は、宿主である家畜や霊長類と、その腸内細菌の共進化についてお話されました。宿主が食べる食物が、時代の経過とともに変化してゆくと、その食物を好む細菌が選択されたり、その食物を利用しやすいように細菌の機能が進化してゆくそうです。逆に、近縁の動物の腸内細菌の遺伝子情報から、その進化の過程を比較すると、遺伝子の差異が起こった年代から、宿主である近縁動物が、進化の過程でいつ頃分岐したかを

    推定することが可能になるそうです。
     牛田様は、ライチョウなどの絶滅危惧種の保護・増殖プロジェクトにも関与されています。野生のライチョウは、自然環境で得られる食物を安全に消化・吸収できるような腸内細菌を備えています。一方、人工環境の中で孵化し、育った雛鳥は、そのような腸内細菌を持っていません。そのため、雛鳥に親の糞から必要な腸内細菌を取り込ませるための特別なオペレーションを組む必要があるそうです。
     質疑応答では、会場の質問者とアフリカにいる講演者が、直接マイクでやりとりすることができ、空間の隔たりを感じませんでした。このようなことを可能にする通信技術の進歩に感銘をうけました。

  2. 「極地から地球が見える」 朝日新聞南極・北極専門記者 中山由美
     中山様は、肩書の「南極・北極専門記者」が物語るように、南極、北極での科学観測の場や、そこに住む人たちの生活を長年にわたり現地取材されてこられました。講演では現地で取材した映像の中のハイライトを紹介し、極地の自然や生き物の美しい映像を堪能させてくれました。特に、アデリーペンギンの喧嘩の写真は、まるで人間同士のようで、笑いを誘いました。
     また、南極観測隊と共に越冬した中山様ならではの、観測隊の人たちの仕事や生活のリアルな映像を見ることができました。ドローンを活用した砕氷船「しらせ」や昭和基地の俯瞰映像は立体的で迫力がありました。

     北極グリーンランドでは、第58回雲南懇話会で講演された竹内望様の科学調査チームに同行取材し、夏季の氷床上を勢いよく流れる川や、この融水を促進する雪氷上の藻類の調査が紹介されました。
     また、シオラパルク在住の猟師、大島育雄さんの狩猟の旅への同行取材では、シロクマを仕留める決定的な瞬間の映像を見ることができました。厳しい寒さの中で、よくこの映像を撮影することができたものだと、感銘を受けました。
     中山様は雲南懇話会の安仁屋代表がリーダーを務める南米パタゴニアの科学調査にも同行取材しています。パタゴニアの氷河が地球温暖化に伴い、著しく後退していることを説明する安仁屋代表の映像が流れました。
     地球温暖化の影響はパタゴニアやグリーンランドなど、極地の雪氷圏に顕著に現れます。南極大陸でも、西南極を中心に、その影響が現れてきています。このように、極地の現地取材を通して、地球環境の変化が見えてくるそうです。最後に、南極条約の精神についても、語っていただきました。



  3. 単独で、ナイフもなく、徒手空拳で森に放り出されて、生きていけるだろうか? ~石器時代へのタイムトラベル~ ~石器時代からの呟き~ 探検家、医師、武蔵野美大名誉教授 関野吉晴

     関野様はホモサピエンスが約6万年前、アフリカを出て、世界に拡散した旅を、自らの足で逆に辿る「グレイトジャーニー」を達成したことで有名です。
     第56回雲南懇話会で関野様は、日本に人類がやってきた道の一つである、南の海からの旅を再現するため、学生たちとともに、自然から得られる素材だけで旅を実現させたお話をされました。砂鉄から、たたら製法で鉄製の工具を作り、それを使ってインドネシアで丸木舟を作り、そこから日本まで3年がかりで船旅を完遂することができた、というご講演でした。
     これらの旅は空間を移動する旅でしたが、今回は時間を遡る旅のお話です。(関野様はこの講演と同様の表題で、ドキュメンタリー映画を製作中です)
     関野様は20代の頃、アマゾンのマチゲンガという部族とともに暮らしました。彼らは鉄のナイフ一本さえあれば、森にある素材を使って家や服を作り、食糧を獲得して生きていくことができます。関野様も、そのような暮らしができるようになったそうです。(しかし、鉄のナイフが無かったら、どうなるのでしょう?)
     鉄の発見・活用は人類の歴史上、革命的なことであり、現在の世界で、鉄の恩恵に浴していない人は皆無です。それほど鉄は人類にとって重要ですが、鉄の発見以前、人類はどのように暮らしていたのでしょうか?それは、石器時代まで時間を遡り、その時代の人々の暮らしを想像することにつながります。
     そこで関野様は「ナイフも無しに、森の中に一人で放り出されたら、どうやって生きていけるのだろう?」という問いを立て、その答えを自ら実践して求めることにしました。その途中経過が今回のお話です。
     まずは、打製石器作りから始め、その石器で大変な時間をかけて立ち木を切り、茅を切り、樹皮から紐を作り、家を建てます。そして、そこに居住しながら、丸棒を手もみして火を起こし、煮炊きや狩猟の道具など、自然の素材でいろいろなものを作ってゆきます。それらの一つ一つは、とても時間のかかる仕事ですが、ゆっくりと時間をかけて体得し、自ら作ったものを使って食糧を得て、暮らしてゆくそうです。
     このような暮らしを東京の森で始めましたが、その後、亜寒帯から亜熱帯まで、多様な気候風土をもつ日本の特色に気付き、新潟県北端のマタギ村、北海道の二風谷、沖縄などの各地で、その土地ならではの自然の恵みを見つけ、このような暮らしを試みたいそうです。
     頭で考えるだけではなく、自ら実践し、実現してしまうところが関野様のすごいところだと思います。このような実践の中で、現代人が失ってしまった感覚など、いろいろな気づきがあるそうです。それらの気づきを楽しみながら、実践を続ける関野様から、今後、どのような報告を聞かせていただけるか、楽しみです。

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